3D ARVIの開発においてはANA様のノウハウ無しにはなし得ないことがたくさんありました。社内各セクションの意見を収集・精査して開発に携わっていただいた運航管理者にお話を伺いました。
―― エムティーアイと一緒にこのプロジェクトを進めてもよいと思われたきっかけについて教えてください
以前、参加した会議で「3D雨雲ウォッチ」のプレゼンテーションを見ました。「3D 雨雲ウォッチ」は雨雲が三次元で見られるという一般の方向けの豪雨予測に関するものでしたが、今まで平面で見ていたものを立体で見たときはとても画期的だと感じ、感動しました。こんな風にアプリでサクサク動く雨雲を初めて見ましたし、最新の技術を使っている上にデータがスムーズに動いてとても実用的なものだと思いました。
航空機は三次元を飛行していますので、今まで二次元でしか見られなかった気象現象が三次元で見られるのであれば航空業界とすごくマッチしており活用できるのではないかと思ったのがきっかけです。
―― 具体的にイメージされた活用シーンについて、運航管理者としてのご経験の中で感じていた課題はどのようなことだったのでしょう
まずは天気図に慣れるまでにある程度の時間が必要ですし、三次元を飛んでいる乗員にアドバイスする際に、地上で支援している中では二次元の情報を三次元に置き換えて伝えることがかなり難しいという印象を持っていました。
その能力を培うためには経験年数や、気象情報に関してさまざまな見方を学ぶ必要があります。航空気象は難しいですし、一般気象とは大きく違って馴染みがないので習得には時間がかかるという課題があると感じておりました。そういったことを踏まえ、一目瞭然でわかるようなものがあれば、経験値など関係なく質の高い情報を乗員に伝えることができると思いました。
特に雷に関して、いわゆる面的な二次元の予測はありますが、それをもとにどのように回避すれば良いかということまでアドバイスをするには、資料に慣れる必要があります。予測がどのように表示されていて、それがどうなっていたか伝える必要がありますので、これまでは経験豊富な先輩方に教えてもらうとか、乗員のブリーフィングで「こういった情報があればもっとありがたい」などの声を集めるなど、業務に携わって5〜6年かかってやっと大まかなことがわかってくる…それくらいの年月が必要でした。
―― 二次元の情報よりも三次元で見る方が共通の認識を持ちやすいと感じていらっしゃることをお聞きできたと思いますが、例えば導入によって業務の効率化に関してはいかがでしょうか
乗員も私たち運航管理者・運航支援者も、気象を見る時間は限られていますので、計画の段階で避雷の可能性と回避方法について瞬時に判断する必要があります。これまでは飛行した先で情報を聞いて対応するのが主でしたが、3D ARVIを使うことによって事前に回避イメージを持てるようになったのはすごく大きいと思います。
また、二次元の情報で組み立てられた空間イメージは個々の頭の中にありましたが、それが目の前に三次元で表現されることによって、みんなで共通のものを一緒に見ることができるようになりましたので、お互いに共通認識を持ちやすいですし、話がしやすくなりました。
今までは乗員にアドバイスを伝えても「何を見てそう思っているのか?」など質問を受けることがありました。そうすると質問を受けた側も不安になってしまうこともありましたし、個人の経験値によるアドバイスで回避する場合も多かったと思いますが、3D ARVIを使うとお互いに同じもの(イメージ)を見ていて、それをお伝えするだけなので、乗員側もその根拠となるものを掴みやすく、説得力があるのではと思います。
―― 企画者のお一人として社内からのリクエストなどいろんな話をまとめる立場として大変だったことはどのようなことでしょうか
これまで使ってきた情報の中で二次元のままで良いものはそのまま見れば良いですし、どの現象を三次元にすれば一番効率的なのかについては、すごく悩みました。話が広がっていく中で、乗員と地上運航従事者と運航管理者の中で、三次元になることで何が一番活用できるかについて共通認識を持ってしぼり込んでいく過程が、作業としては一番時間がかかりましたし大変でした。
ですが、特に何かに縛りを設けず自由にこういうのがあったらいいよね、と話し合いながら開発していましたので、大変というよりも、楽しい・嬉しいが大きかったです。自分たちが思い描いたものが形になり、今までなかったものが実際に手に取ることのできるツールとして出来上がったときの感動もありました。まだ改善すべきことはたくさんあると思いますが、こうして一つ一つ出来上がっていく過程のバーチャルハリウッド協議会(※1)はかなり楽しかったです。
―― パイロットや運航管理・運航支援の方々の声を聞いてどう思われましたか
乗員から回避の選択肢が増えたという声があがっています。乗員は気象分野だけではなく、操作をはじめ他の知識もかなり多く取り入れる必要があり、気象に特化できませんので、鉛直方向の回避については、経験値と意識が高い一部の人が着目しているものの、全ての乗員の選択肢にあるとはいえませんでした。3D ARVIの導入により、今まで鉛直方向の回避をあまり活用されてなかった方の視点が広がることに関してとても良いことだと思っています。回避イメージとして縦の方向が加わることが、今後の避雷回避のために効果的なのではと思いました。
例えば気温が高くなってくる夏季雷であれば、鉛直方向の回避が有効な場合もありますので、こういう点にも着目して飛んでいただけるとより運航効率があがるのではと思います。
―― エムティーアイと一緒に開発をされてみていかがでしたか
こちらのニーズをすごく汲み取ってくださいました。「こういうものがあるといいね」をすぐに目に見える形にしていただけたこと、こちらに寄り添っていただいたことは素晴らしいと思いました。
こちらも航空気象に関してなるべくわかりやすくお伝えするよう気をつけていましたが、エムティーアイは航空気象や気象の勉強会を開いて独自に勉強されていたので、私がなにか特別な工夫をする必要もなく理解していただけたのですごく助かりました。また、開発の内部で使うIT専門用語を会議の中で使うこともなく、わかりやすくお話いただいたのかなと思います。
―― 今後の3D ARVIに期待すること、航空業界にさらに貢献できそうな未来像についてお聞かせください
今の3D ARVIは雷に特化していますが、ほかに三次元で見られると有益なのはタービュランスです。この2つの現象の中でも雷は連続避雷が課題になっていますし、タービュランスは負傷が問題になります。他の気象情報では確認できない、もしくは確認が困難な現象を解決できるツールになると良いですね。3D ARVIは航空業界でとても注目度が高いので、今後も航空気象の見える化を進めていただければありがたいなと思います。
ありがとうございました。3D ARVIがもっと航空業界に貢献できる未来像や開発秘話について伺うことができました。これからもより安全な運航をサポートさせていただけるよう進化し続けます。
▼取材協力 お話を伺ったのは
ANA(全日本空輸株式会社)様
※1 バーチャルハリウッド協議会とは、ANA様に所属する会社や業務の枠を越えて想いやアイデアに共感するメンバーがチームを作って活動する、社員の自発的提案活動。多様な企業・団体と「多様性を活かし、相互に学び、新たな価値を生み出し続ける組織づくり・人づくり」に向けた相互学習・共創の場となっており2004年にスタートした。