Newsニュース

ARVI 航空気象サービス > コラム > 気象 > 安全運航と気象 〜航空気象の目的とは

安全運航と気象 〜航空気象の目的とは

同じ「気象」と言っても、多くの人が毎日よく目にしている、いわゆる生活に密着している「お天気」の一般気象と、専門的な情報として特定の人が利用している航空気象では、目的も内容もかなり違います。そこで今回は、気象のプロ・桜美林大学 航空・マネジメント学群 助教・藤田友香さんにその違いや内容についてお話を伺いました。

写真提供:桜美林大学

藤田友香さん
立正大学大学院地球環境科学研究科を修了後、民間気象会社に入社。気象予報部で予報業務に携わり、2011年から4年間NHK鳥取放送局で気象キャスターとして夕方のニュース番組に出演。2016年に航空会社に入社し運航支援業務を担当。気象予報士、運航管理者等の資格を保有。

―― 航空気象は一般気象とどのようなことが違うのでしょうか?

まずは、なんのための観測・予報なのか?というところが大きく違います。一般気象は国民の生命や財産を災害から守るためにあります。警報・注意報のような防災情報に加え、いわゆる「生活に関わる」予報が伝えられています。
全国各地の天気予報や週間天気予報をはじめ、気象レーダーを使ったもっと細かい情報のナウキャスト(降水・高解像度)、農業や商品の売り上げ予想に役立てられる長いスパンの季節予報(1ヶ月・3ヶ月・暖候期・寒候期)、などがあります。

航空気象は、航空機が安全に運航する上で必要な飛行計画の作成や出発・目的空港や航空路の気象状態の把握、航空機ならびに空港施設の安全確保のためにあります。一般気象とは違って、目的がかなり特殊(専門的)になり、その目的に合わせてさまざまな予報があります。下記の表は全部、空港を含めた空港周辺の予報についてまとめたもので、それぞれ「有効時間」と「主な目的」が違います。

参照:気象庁

・運航用飛行場予報(TAF)
有効時間は発表から30時間先までで、出発・目的・代替空港等の気象状態の把握、燃料や貨物の搭載の見積りなど、主に飛行計画作成を支援するために発表されています。世界中で使われており、国際的に決まったルールに基づいて情報のやりとりが行われます。
表示する形式として電文形式と時系列形式があり、数字や文字で予報を表現している電文形式が一般的に使われています。慣れていないと少しわかりづらいと感じるかもしれませんね。時系列形式が「飛行場時系列予報(表の一番下)」といわれるものです。

・着陸用飛行場予報(TREND)
有効時間は発表から2時間先で、着陸用と書いてある通り到着予定前約1時間以内の航空機に使われます。飛行中の飛行機に対して、現在の気象状態から何時何分頃から風がこう変わりますよ、視程が落ちてきそうですよ、といった変化の詳細を伝えるものです。飛行中の飛行機はTAF(上記)を参考にして飛んできますが、「ある程度の時間幅の中で変化する」というような表現で予報されています。例えば、1〜4時間の間で変化する予報の場合、その時間帯が到着予定時刻の際には着陸時に変化前後どちらなのかが重要になることがあります。このため、パイロットが目的地の気象状態を確認する観測値のデータに付け加える形でTRENDは発表されます。この予報は、大規模な空港である東京・成田・中部・関西・福岡のみ発表されています。

・離陸用飛行場予報(TAKE OFF FCST)
有効時間は発表から6時間で、出発予定前約3時間以内に離陸する航空機に使われます。
他の予報と一番違う点は、1時間ごとの気温と気圧の予想をしていることです。これは、気温が高い時や気圧が低い時は空気の密度が小さくなり、得られる揚力が小さくなるためです。例えば、貨物を大量に積みたい場合など重量が大きくなる際は、離陸時の気温・気圧によって調整が必要になってきます。

・飛行場時系列予報
TAFの時系列形式のものです。「発表から 12 時間先まで1時間ごとの予想」及び「12~30時間先まで3時間ごとの予想」の 2 種類を発表しています。
気象庁HPの、各種データ・資料>左側一番下>航空気象情報>飛行場時系列予報・飛行場時系列情報
から見ることができます。こちらの内容はTAFと同様ですが、より詳細でわかりやすく書いてありますので、まだ電文形式に慣れていない学生にはできるだけ見るよう推奨しています。

写真提供:桜美林大学

航空気象の目的としては、離陸から着陸まで安全に行えるかどうかがとても重要です。特に離着陸時は、地表面に近いことや低速で飛んでいることから、気象状態によっては危険を伴うことがあります。最も注意が必要なのが着陸で、危険な場合は着陸のやり直しや上空待機を行い、気象状態の変化と残りの燃料量から、安全な空港へ目的地を変更するかどうか判断するため、空港の観測や予報は欠かせません。

もちろん巡航中も、乱気流などによって機内の乗客や客室乗務員が大きな怪我(骨折など)をすると航空事故に繋がってしまうおそれもあります。揺れを察知できていると、パイロットがシートベルトサインを出して揺れに備えます。また、乱気流の強さは段階があり、遭遇する強さによっては機体に影響が出て、点検が必要になることがあります。
このように、空港だけでなく航路上の気象状態も確認することで、航空機は安全に航行しているのです。

―― 近年、世の中では「脱炭素」などと、気候変動に関して注目されていますが、航空気象の分野でも影響があるのでしょうか?

気候が変わると、雨の強さや降る場所が変わるなど、かつてなかったような気象現象が発生する可能性は否めません。特に温暖化による研究は色々と行われていて、乱気流に関しては、現在発生頻度の高い北太平洋のうち、中西部で将来発生頻度が減少する一方で、その周辺では頻度が高まる可能性があるという報告もあります。また、日本の降雪量に関しては、ひと冬の総量は全体的に減る傾向でも、ドカ雪のような短い時間に極端に強く降るような日が増える地域があるとの見方もあります。これらの予測が現実になったとき、今までの経験が活かせなくなったり、空港が対応しきれなくなったりすることも考えられます。例えば、空港の排水能力にしても「想定外」の現象が起きれば排水が間に合わず、滑走路が冠水することもあるかもしれません。

イメージ

―― そういえば2018年には台風21号の影響で関西国際空港が大変なことになりましたよね。

そうですね、想定外の高波となって空港が冠水するなど、かなり深刻な状況になりました。あの時の高波は、台風に伴う観測史上最大となった暴風の影響が大きかったことが報告されています。また、昨年(2020年)成田空港では強風で駐機中の機体が動き、ブリッジに接触して一部破損したと報道がありましたが、強い風による影響は飛行中だけでなく、駐機している航空機にも及びます。

航空機には外に駐機しておける基準があり、風速がその基準以上になったら、機体を重くするために燃料を積む・格納庫にしまう・他の安全な空港に置くなど、運航管理の部署ではそういったことも考える必要があります。

そのほかにも強風時は、様々なことが起こります。私が航空会社にいた時は、飛ばされてきた物が誘導路を塞いだり、格納庫の扉が開かなくなったりしたこともありました。また、空港周辺の地形によって低層に乱気流が発生することがあり、航空機の離着陸に大きな影響が出ます。これは私の研究分野でもあり、現在は静岡空港の低層乱気流について調査しています。


藤田さん、ありがとうございました。次回は藤田さんの研究分野・低層乱気流に関してお話を伺いたいと思います。

取材協力:桜美林大学・藤田友香さん(桜美林大学 航空・マネジメント学群)