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冬季雷ハンター・道本博士に聞く「冬の雷と安全運航」

日本の冬には世界中でも珍しい現象の「冬季雷」があります。実はこの冬季雷と飛行機の運航は切っても切れない関係があります。そこで今回は「冬季雷」の専門家にそのメカニズムについてお聞きしました。

道本光一郎
理学博士。防衛大学理工学研究科気象学科修了。航空気象群本部技術班長、那覇気象隊長、航空支援集団気象課長、同運用第二課長、第四技術科学校第二教育部長、航空気象群副司令、防衛大学校教授、日本大気電気学会長を歴任し、冬季雷を中心として雷の気象学・電気的特性解明の研究に従事。『冬季雷の科学』(新コロナシリーズ)、『気象予報入門』(新コロナシリーズ)、『大気電気学』(分担/東海大学出版会)など著書多数。

―― まずは基礎知識として、冬季雷とはどのような特徴をもっているのでしょうか?

皆さんに馴染みの深い雷といえば、夏季に発生するモクモクと発達した積乱雲によるゲリラ雷雨などの夏季雷だと思いますが、同じ雷といっても夏と冬では性質がかなり違います。

冬は冷たい北西の季節風が日本海を渡ってきますが、日本海には対馬暖流があって海水温が比較的高いので、暖かい海面上を冷たい空気が移流して水蒸気ができて雲を作ります。この冬型の雲は発達しながら日本海上を渡って陸地に近づいてきます。ちょうど沿岸あたりで積乱雲となり冬季雷をもたらす雲が広がるのです。冬の時期、衛星写真をみると日本海全体に組織だって雲が広がっている様子がよくわかります。

冬型の気圧配置が強まると、大陸から白いスジ状の雲がどんどん日本海沿岸に届くように伸びている様子が衛星写真で見られます。これらの現象は「日本海」があるから発生するもので、日本海がなければこういうことは起こりません。

―― ということは、冬季雷という現象は日本海側に限ったものでしょうか?

先程お話した冬季雷の原理を理解できると、大陸では発生しない現象だということがわかりますよね。
他の地域ですと、ノルウェーでは西側に暖流が流れていて似たような状態になりますし、イスラエルの西海岸あたりも地中海から冷たい空気が入ってくるとこういう積雲・積乱雲ができて似たような感じになります。それに大規模ではないけれど北米の五大湖周辺には大きな湖があり、似たような現象が発生することもあります。世界中で4〜5箇所、といったところでしょうか。

―― 他に冬季雷の特徴として挙げられることはどのようなことでしょう?

雷としてのエネルギーが強いことですね。というのは、夏の雷とは性質が違うからです。例えばARVIで見ると日本海側の雷の活発な範囲が広いでしょう? 100〜200kmに渡って広がっています。

ところが夏の積乱雲は、衛星写真で見ると陸地に小さくポツポツっと点在している程度で面積が全然冬と違います。一方、垂直方向に関して言えば、夏のいわゆる入道雲と呼ばれる雲は10〜15kmも発達しますが冬の雷雲は垂直にはせいぜい7〜8kmで、夏の半分くらいです。横広がりの冬、縦方向に伸びるのが夏、というわけです。ということで冬は雲の範囲が広いから帯電量が大きいというのが、エネルギーの強さの原因のひとつです。

―― その電気はどこからくるのでしょうか?

大気中の物質同士の摩擦や水分の相変化(気体〜液体〜固体)時の作用によって帯電しているのではないかとされています。氷や水の粒がぶつかり合ったときにプラスとマイナスに分かれるといった、ミクロの相互作用ですね。また、物質同士がぶつかった際の摩擦も考えられると思います。
ちなみに摩擦電気だけで起きるのは南極や北極で見られるブリザードですね。局地では全てが氷の摩擦です。気温が低いので上下方向に動かず、地上付近で左右にいったりきたりして衝突し、プラスとマイナスに分かれるのです。余談ですが、火山雷は同じ摩擦電気で発生していますが夏冬の雷雲内での帯電現象とは原理的には全く違うものです。

また、冬の雷雲は高度が夏と比べて低いことも特徴として挙げられるでしょう。地面から雲底までの高さがせいぜい300m〜500m程度で、電気が溜まっている層が地面により近いので上に向かって放電してしまいます。冬の被雷は圧倒的に低高度で起こるので、離陸・着陸時に注意が必要ですし、広い範囲に帯電した雲が広がっており、そこに向かって、飛行機が突入するので電気が走る(被雷する)わけです。

さきほど、冬季雷はエネルギーが大きいと話しましたが、その原因のもうひとつとして、夏は頻繁にピカピカゴロゴロして中和されていますが、冬はそれが少ないので電気が溜まる時間も長いことが挙げられます。静かに大きく溜まった電気が少ないきっかけで中和されるので、1回あたりの中和電荷量が大きく夏と比較してエネルギーが10倍〜100倍の強さの雷が発生します。電気は見えませんのでどれくらいのエネルギーが溜まっているかわかりません。定性的というわけではありませんが、雲の面積やレーダーエコーも夏と比べるとかなり大きく水平方向に広がっていることがわかります。ただ、電気がどれくらいの領域でどれくらい溜まっているかというのはリモートセンシングではなかなかできないですからね。

―― そんなに帯電しているということは、冬季雷の雲は怖いですね。広がった雲のどこが最も被雷するポイントでしょうか?

特にどこか特定の被雷しやすい場所がある、ということはなくどこでも被雷する可能性がありますね。ただ、雲中に突入するときや出る時、直前などが多いと感じられることはあると思います。

最近の航空機は電気に強い部品でつくられていますが、昔は雷に対する知見が少なかったので、被雷すると大きな電流によって電気系統や無線などの付加設備の機能が損なわれ、事故につながりかねませんでした。また、以前と比較して最近の航空機の機体は軽量化のために金属部分と複合材の部分とに分かれて、両者を接合する部位が多くなりました。もちろん強度的にはOKでも雷電流によって損傷しないわけではありません。機体を軽くして燃費を良くする経済効果と被雷によって損傷した部分を修理する費用が高くつくので、やはり可能な限り被雷を避けたいのが航空会社のコンセンサスといえるでしょう。

―― ありがとうございました。ところで道本博士はなぜ雷について研究を始められたのでしょう?

もう50年以上も前になりますが、1969年2月8日に金沢市で、落雷を受けた自衛隊機が市街に墜落して死傷者が出る大きな事故がありました。ちょうど12歳を迎えた少年の私にとって、それは後の進路に大きな影響を与えたとても衝撃的な出来事でした。これがきっかけとなったことは間違いないですね。雷に関してはまだ解明されていないことも多いですが、とにかくパイロットをはじめ航空関連事業者にとって雷は嫌な存在だと思いますので、ARVI のようなツールは必要ですし、今後ももっと役立つツールに育って欲しいと願います。